

昭和の日、西久保の曇り空に灯った濃厚豚骨魚介まぜそば

昭和の日の武蔵野は、祝日のわりにどこか静かで、空だけが少し重たそうです。西久保界隈を歩いていると、春はもう来ているはずなのに、頬に当たる風だけが「まだ油断するな」と言ってくる。そんな曇り空の下で目指したのが、麺屋さくら井の定休日である水曜日にだけ営業するKEN軒です。

この店は麺屋さくら井の水曜営業ブランドとして、濃厚豚骨魚介を前面に掲げる存在。同系統のつけ麺は「円やかで厚みのある豚骨」と「香ばしい魚介」が印象的だと評されています。今日はその流れを、まぜそばという少し奔放な器で受け止めるわけですから、こちらの胸も自然と高鳴ります。店先の素朴さ、扉の向こうに潜む熱気、そして祝日らしい、どこか緩んだ街の空気。あゝ、この時点でもう、昼飯というより小さな冒険の入口でございます。

<サッポロ赤星> 赤い星の古風な風格と静かな苦み!濃厚なまぜそばへ向かう舌をきれいに整えてくれる!?



まずはサッポロ赤星。こういう日は、いきなり丼に飛び込むよりも、先に喉を落ち着かせてからのほうが、物語として美しいです。飴色の液体が小さなグラスへ注がれて、白い泡がふわりと立ちのぼる。その様子を見ているだけで、曇り空の下を歩いてきた体の芯が、すこしずつほぐれていくのが分かります。



ひと口含めば、キリッと苦いのに、角が立ちすぎません。まっすぐで、古風で、妙に頼もしい。公式案内でも、赤星ことサッポロラガービールは「現存する日本で最も歴史のあるビールブランド」で、熱処理ビールならではの厚みある味わいが特徴とされていますが、まさにその言葉が腑に落ちる飲み心地でした。派手に踊るというより、静かに場を整える一杯。今日の主役が濃厚豚骨魚介まぜそばであるなら、この赤星は、舞台の照明をそっと落とす前奏曲のような存在でございます。



<ホタルイカ> 海の春をそのまま小皿に載せたようなホタルイカ!赤星の苦みをやわらかく受け止める!


昼酒の幸福を一段深くしてくれる...それがホタルイカです。小皿に並んだその姿は、いかにも春の酒肴らしい艶をたたえておりました。身はつるりとしていながら、噛めば内側からじわりと旨みが滲み、肝のほろ苦さがふっと広がります。添えられた生姜をちょんと乗せれば、海の気配の中に、すっと風が通るような清涼感が生まれます。これがまた赤星に合うのです。


ビールの苦みがホタルイカの旨みを締め、ホタルイカのねっとりとした余韻が、次のひと口のビールを待ちわびさせます。春の曇り空の下でいただくには、なんとも風流で、しかも妙に実直です。派手さで刺すのではなく、季節の輪郭をそっと舌に置いてくる。まぜそばの登場を待つあいだ、この小皿だけで「今日、来てよかった」と思わせるには十分でした。

<全体> 炙り豚バラ、魚粉、卵黄、太麺が一斉に視界へ飛び込み一幅の濃厚な風景画の様な迫力!

そして着丼。出てきた瞬間、思わず姿勢が少し前のめりになります。丼の中心に据えられた卵黄は、曇天の昼にぽっと灯った夕陽のようであり、その周りを囲む炙り豚バラの照りと脂の艶が、なんとも艶っぽい。

さらに魚粉がどさりと控え、フライドオニオンが「これはまぜそばです」と高らかに宣言しているではありませんか。海苔の黒々とした存在感、そして太麺の堂々たるうねり。どこを見ても主役級なのに、全体としては不思議と散っておらず、むしろ一枚の絵のようにまとまっております。豪快なのに雑ではなく、濃厚なのに荒れた気配がない。まるで「豚骨魚介」という力強いジャンルを、一歩落ち着かせて大人の顔つきにしたような一杯でした。

<薬味> 魚粉、フライドオニオン、卵黄の三重奏が、濃厚さに単調さを許さず、香りと食感を形成!


まず目を引くのは魚粉です。器の手前にふわりと盛られたその山は、ただの味の足し算ではありません。これから混ぜ込まれて全体の骨格になる、いわば設計図のようなものです。鼻を寄せれば節の香ばしさが立ち、まぜる前から魚介の輪郭を予感させます。フライドオニオンは軽やかな衣擦れのようにカサカサとした音を立てそうで、その乾いた香ばしさが濃厚な世界へ小気味よい隙間を作ってくれそうです。



卵黄は言うまでもなく、この丼の重心です。これが崩れた瞬間、全体をまろやかに束ねる未来が見えています。実際、箸を入れていくと、魚粉はタレの厚みに奥行きを与え、フライドオニオンは食感に軽い跳ね返りを生み、卵黄はそれらを角の取れた円形へと導いてくれます。濃厚なまぜそばとは、ともすれば正面突破だけで終わりがちですが、この一杯は薬味の仕事がきめ細かいので、食べ手の感覚が途中で飽きません。実に抜かりないですな!。

<麺> あつもりの様に温もりを帯びた太麺!ぷりぷりと弾みながらも噛むほどに甘みを広げる!



この麺が実にいいです。まず、持ち上げたときの佇まいが頼もしい。細く鋭く攻めるのではなく、太く、微妙に角張り、堂々としています。しかもただ太いだけではなく、表面にほどよいなめらかさがあり、箸先でつかんだ瞬間から「これは噛ませる麺だ」と分かります。



実際に口へ運ぶと、ぷりっとした弾力のあとに、むっちりとした密度が続き、最後に小麦の甘みがふくらんできます。熱すぎず冷たすぎず、どこかつけ麺のあつもりを思わせる温度感もまた好印象で、濃いタレを受け止めるのにちょうどよい。噛み締めれば噛み締めるほど、素地の風合いがおおらかに広がって、「濃厚に合わせるための麺」では終わらず!。「麺そのものが旨い」という事実をしっかり主張してきます。こういう麺に出会うと、口の中が単なる消費の場ではなく、ちゃんと鑑賞の場所になります。



<タレ> つけ麺のつけダレを思わせる濃密さありながらパンチ一辺倒ではなく落ち着くまとまり!

この一杯の肝は、やはりタレでございます。まぜそばでありながら、根っこにあるのは「濃厚豚骨魚介つけ麺」のつけダレ的世界観と言えましょうか?。同店のつけダレは細かな泡立ちを伴う円やかな濃厚豚骨魚介で、煮干の甘みや軽い苦みを抱えつつ、豚骨由来の厚みが上品にまとまる感覚です。今回のまぜそばも、まさにその延長線上にあります。魚粉が混ざることで魚介の香りはぐっと前へ出ますが、決して攻撃的にはなりません。豚骨の濃さも、どすんと殴るのではなく、丼の底で静かに支えるタイプです。

卵黄がそこへ溶け込むと、全体はさらに滑らかになり、味が「濃い」のに「うるさくない」という理想的な着地を見せます。パンチではなく、密度。刺激ではなく、一体感。だからこそ太麺を何度絡めても、最後まで気持ちよく食べ進められるのです。まぜそばでありながら、どこか落ち着きがある。その落ち着きが、むしろ強いです。
<チャーシュー> 移転前から看板の炙り豚バラチャーシュー!香ばしさと脂の甘みと柔らかさが見事に重なる!

やっぱりここは炙り豚バラが秀逸!。これがもう、反則気味に旨いです。表面の軽い焦げ目がまず香りを連れてやって来て、噛んだ瞬間には脂の甘みがじゅわりと開いていきます。ところが、甘いだけではありません。炙りによる香ばしさがしっかり芯にあるので、脂が重さにならず、むしろ快感へ変わっていきます。肉質はやわらかく、箸で持ち上げるだけで「これはほどけるぞ」と分かるくらい。


しかし実際に頬張ると、ほどけるだけでなく、ちゃんと肉を食べる充実感も残してくれます。炙りの入った豚バラ肉は香ばしさとしっとりした脂の溶け具合が魅力としてみなさんもきっと感じるはず。今回その魅力はまぜそばの上でさらに分かりやすく炸裂しておりました。魚介の香り、卵黄のまろみ、太麺の甘み。そのど真ん中に、この豚バラの艶と香りが座るのですから、旨くないわけがありません。正直、これだけでも丼一杯いけそうですし、いや、無限大に食えそうです。


<追い飯> 残ったタレに白飯を迎え入れるブーメラン形式!まぜそば余韻を二度目の主役へと変える!


食べ進めるうちに、丼の底には旨みの濃縮地帯が生まれてまいります。魚介の香り、豚骨の厚み、卵黄のまろみ、フライドオニオンの香ばしさ、そこへ麺の名残まで加わったタレです。これを残して帰るのは、あまりに惜しい。そこで追い飯でございます。丼を手渡し、白飯を入れてもらって受け取る、あのブーメラン形式。これがまた楽しいのです。一度手を離れた丼が、白飯という新たな希望を連れて帰ってくる。その時点でもう勝負ありです。


飯をぐっと混ぜれば、先ほどまで麺を抱いていたタレが、今度は米一粒一粒を抱きしめにかかります。麺よりもさらに素直にタレを受け止めるので、旨みの輪郭がいっそう立ちます。最後の最後に、どこか雑炊的でもあり、丼飯的でもあり、しかしどちらでもない、この一杯だけの締めが完成します。まぜそばとは、終盤でだれる料理ではなく、終盤で本気を出す料理なのだと、あらためて教えられる展開でした。

総じまして...「 濃厚さ、香ばしさ、まろみ、太麺の食べ応え、そして追い飯まで、最初から最後まで抜かりなく幸福に満ちた一杯!」

KEN軒の濃厚豚骨魚介まぜそばは、いわゆる“ガツン系”の言葉だけでは括れない出来栄えでした。確かに濃厚です。太麺で、魚粉で、卵黄で、炙り豚バラで、フライドオニオンまで入っているのですから、構成要素だけ見れば相当豪快です。ですが実際に食べると、すべてがちゃんと整っております。濃さが暴れず、香りが散らず、麺が負けず、具材が浮かない。その結果として生まれるのは、満腹感以上の満足感でした。少し肌寒い春の曇り空、その下でいただくには、この濃厚さはむしろ優しさだったのかもしれません。体を温めるというより、気分をまるごと持ち上げてくれる濃厚さ。祝日の昼にふさわしい、ちょっと贅沢で、かなり真面目で、そして実に旨い一杯でございました。
今回あらためて感じたのは、KEN軒の豚骨魚介は「懐かしいジャンル」ではなく、まだまだ現在進行形のご馳走だということ。つけ麺的な濃密さを下敷きにしながら、まぜそばとしての楽しさをきっちり成立させ、しかも最後は追い飯で着地まで美しく決めてくる。そこへ赤星とホタルイカという春の寄り道まで添えられてしまったら、もう昼のラーメン探訪としては文句なしです。西久保の曇天さえ、食後には少し風情に見えてくるのですから、食の力はやはり大したものです。激しくオススメ!旨し!なので・・・とっとと詠って、いつものように締めたいと思います!。

お粗末!と言うことで家族にも感謝しながら合掌!!今日も本当にごちそうさまでした!




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