
水曜だけ現れる特別営業の昂揚!西久保の街角から暖簾の奥へ吸い込まれていく期待感の高まり!

四月も下旬に入り、春はもう「始まりました」と言うより、「すっかり馴染んでおります」と言いたくなる頃合いです。三鷹駅北口から西久保へ向かう道すがら、街路樹の緑は日に日に濃くなり、空はどこか高く、それでいて雲の膜を一枚かぶせたような柔らかな明るさを湛えておりました。こういう日には、妙に足取りが軽くなります。暑いわけではない。寒いわけでもない。ただ、腹が鳴るには充分な、実に都合のよい気候です。

目指す先は「KEN軒」。あの麺屋さくら井が定休日である水曜日にのみ、その姿を現す3rdブランドであります。常設の名店が、週に一度だけ別人格を宿す。この仕組みだけでもう、食いしん坊の胸は充分にざわつきます。毎日そこにある旨さももちろん尊いのですが、「今日しか会えない」「今この曜日にしか会えない」という限定の磁力は、理性の防波堤を軽々と越えてくるものです。西久保の交差点に立つ、あの細長い独特の建物を視界に入れた瞬間、すでに心はほぼ出来上がっておりました。住宅街の静けさと、武蔵野らしい生活の匂いの中に、ふっと差し込まれる“今日は特別営業です”という合図。そのさりげなさがまた良いのです。大げさに騒がず、しかし分かる人にははっきり分かる。この慎み深い誘惑に抗えるほど、私は昼のラーメンに対して強くありません。

店先に着けば、外観はあくまで静かです。けれど、扉のまわりに漂う空気は、確かに「本日はただの日ではありません」と語りかけてきます。並べられた酒瓶の気配、店内へと通じる入口の緊張感、そして「OPEN」の札。表では静かな顔をしていながら、内側では濃厚な企てがぐらぐらと煮えている。その雰囲気がたまりません。こうして私は、週に一度だけ開く豚骨魚介の劇場へ、ほとんど吸い込まれるようにして入っていったのでした。
<全体> 濃厚でありながら沈まず明るささえ感じさせる丼顔に太麺と具材の整いが美しく映える!

食券機の前に立つと、本日は水曜日特別営業、そして太麺の濃厚豚骨魚介らぁ麺・つけ麺に絞られた潔い構成。こういうのが実に良いのです。選択肢が多いことは必ずしも幸福ではありません。むしろ「今日はこれを食べてください」と、店側が一歩前に出てくる日の方が、客はうれしい。迷う時間まで含めて楽しむ日もありますが、この日は違いました。指はほとんど逡巡なく、濃厚豚骨魚介らぁ麺へと伸びておりました。

やがて配膳された一杯を目の前にして、私は思わず「おお……」と、心の中でひとつ低く唸ります。こういう時、過剰な感嘆詞はむしろ野暮というものです。丼の中に現れたのは、重たいだけの濃厚とは異なる、きちんと設計された“濃密の秩序”でありました。スープは確かに濃い。けれど鈍く濁って見えないのです。むしろ表面の泡立ちや艶により、どこか明るく、生命感を帯びて見える。この「濃いのに暗くない」という見た目の妙が、まず実に面白い。

中央付近には、白髪葱がふわりと小山を作り、その脇に海苔が一枚。まるでこの丼に旗を立てるかのように誇らしく掲げられ、脇には極細のメンマが静かに待機。さらにその下には、作り込みの高さを感じさせるチャーシューが堂々と控えております。どの具材も、ただ“乗っている”のではなく、“意味を持って配置されている”ように見えるのです。ラーメンというのは、ときに建築にも似ます。見た目の均衡が、そのまま食後の満足へとつながっていく。そんな予感が、最初の一瞥からすでに濃厚でした。

そして何より、太麺の存在感が美しい。麺線は乱暴に暴れるのではなく、嫋やかに、しかし力を秘めて丼の中に沈んでおります。いかにも「濃厚だから太くしておきました」という記号的な太麺ではなく、濃厚の世界にふさわしい品位を備えた太麺。その佇まいが、丼全体の格をぐっと押し上げていました。配膳された瞬間の第一印象としては、迫力よりもまず整い、豪快さよりもまず精度。それでいて食欲を煽る野性をちゃんと失っていない。この丼顔、実に見事です。
<出汁> 豚骨魚介の芳醇な濃ゆさ!滑らかさとしっとり感が増しより洗練された口当たりへ進化!

まずはレンゲで一口。唇に触れた瞬間から、「ああ、これは濃い」と分かります。しかし同時に、「ああ、これは重たくない」とも分かる。この二つが同時に成立していることこそ、この一杯の真骨頂でありましょう。豚骨魚介という言葉には、どうしてもある種の猛々しさがつきまといます。骨太、濃密、粘度高め、胃袋にずしん。もちろんそういう力技の快楽も大好きなのですが、KEN軒のこの一杯は、その快楽に対して、もう一段上の“滑らかな制御”を与えているように感じられました。

豚骨の厚みは、しっかりとあります。舌に触れた瞬間のコラーゲン質の丸み、骨から溶け出した旨みの重層感、そして液体の中心にどしりと座る乳化の力。これらがきっちりと感じられる一方で、全体の舌触りが妙にしっとりとしているのです。ざらつきや荒々しさで押してくるのではなく、ぬめりとも違う、きめ細かい厚みで包み込んでくる。この“しっとり濃厚”という感覚が、実に現代的で良い。濃いのに、口の中で暴れない。濃いのに、後口が乱れない。濃厚豚骨魚介の荒ぶる魅力を残しつつ、きちんと燕尾服を着せたような印象です。

そこに魚介が重なります。魚粉が前面に飛び出して支配するというより、豚骨の丸い胴体に、魚介の香ばしさと旨みが輪郭線を引いていく感覚。煮干しや節系を思わせる香りが、口の中でふっと立ち上がり、豚骨の甘みを引き締めます。だから濃いのに鈍重にならない。だから重心が低いのに、味の立ち上がりは明るい。この両立が実に魅力的です。

また、スープ表面の細かな泡立ちも印象深い。見た目の活き活きとした表情だけでなく、口当たりにほんのり空気を含ませることで、濃密な液体にわずかな軽やかさを加えているようにも思えます。これにより、濃厚でありながら息苦しさがない。どこまでも粘りつくのではなく、するりと次の一口へ誘ってくる。この“濃さの中の往生際のよさ”が、本当に心地よいのです。
<麺> 全粒感を帯びた太麺!濃厚出汁を力強く受け止る!しなりとコシ!しっとりした地肌!

そして、この一杯を語るうえで麺の存在を軽く扱うことはできません。むしろ、この麺こそが丼全体の説得力を決定づけていると言っても過言ではないでしょう。丼の中から引き上げたその姿は、薄い茶褐色を帯び、全粒粉を打ち込んだことを思わせる素朴な風合い。いかにも濃厚スープに合わせるための無骨な太麺というより、“小麦そのものの個性”を残しつつ、濃厚に立ち向かう準備を整えた太麺、といった表情です。

まず啜って感じるのは、地肌のしっとり感です。表面が乾いておらず、適度に水分をまといながら、スープを着実に抱え込む。濃厚スープに対して麺が負けない、というレベルではありません。むしろ麺の側が、「その旨み、こちらで受け止めておきます」とでも言わんばかりに、堂々とスープを担い上げてくるのです。この“持ち上げの確かさ”が、たまりません。

噛み込めば、力強いしなりと腰つきが実に頼もしい。硬い、ではない。むしろ柔軟性を保ったまま、芯の部分でぐっと踏ん張るような弾力です。歯が入った瞬間にわずかに押し返してきて、その後に小麦の甘みがふくらむ。濃厚な豚骨魚介をまとってなお、麺そのものの風味が埋もれないのは立派です。こういう麺に出会うと、ラーメンを食べているのに、どこか“麺料理そのものの幸福”に触れている気がしてきます。

また、この太麺は見た目の量感に比して、食べ進めるほどに重たさを感じにくいのが面白い。太い麺は時として、序盤のインパクトばかり強く、後半に単調さが出ることがあります。ところがこちらは違う。濃厚スープと絡みながらも、麺そのものに風味と弾力の変化があり、咀嚼のたびに小麦の存在がきちんと立ち上がる。ゆえに後半まで飽きず、むしろ終盤にかけて「この麺、まだ噛んでいたい」と思わせる持久力があるのです。

そして、何よりも“整っている”のが良い。暴れ麺的なワイルドさで惹きつけるのではなく、一本一本がきちんと表情を持ち、濃厚スープの海の中で嫋やかに連なっている。その様子には、粗野な迫力ではなく、手入れの行き届いた力強さがあります。これぞ、濃厚の世界における品格。KEN軒の濃厚豚骨魚介らぁ麺は、スープが主役でありながら、麺を決して脇役にしません。むしろ両者が互いを高め合うことで、初めてこの一杯の輪郭が完成している。そんな印象を深く残しました。


<チャーシュー> もろみ麹がふわりと香る極厚肩ロース!濃厚な一杯に肉の深みと和の奥行きを表現!

濃厚豚骨魚介の一杯において、チャーシューはしばしば“添え物以上主役未満”に落ち着きがちです。スープと麺の圧が強いぶん、肉はただの箸休めになることも少なくありません。しかしこの一杯のチャーシューは、はっきりと自分の居場所を持っております。しかもその居場所が、実に上質なのです。

まず目を引くのは、その厚みです。肩ロースらしいしっかりとした量感がありながら、ただ分厚いだけではなく、表面から漂う落ち着いた艶に、仕込みの丁寧さがにじんでおります。そして口に運べば、もろみ麹がふわりと香る。これが良いのです。肉の旨みの土台に、発酵由来のほのかな甘みと奥行きが重なることで、単純な塩気やタレの濃さでは到達できない、やわらかな深みが生まれております。

噛み心地もまた魅力的です。極厚でありながら、過度に繊維が暴れず、しっとりと歯を受け止める。肩ロースならではの肉感はきちんとありつつ、パサつきとは無縁。むしろ肉汁の気配を控えめに湛えながら、じわじわと旨みをほどいていくタイプです。この“静かな肉力”が実に良い。濃厚スープの派手さに対して、肉は少し低い声で応じる。結果として、一杯の中に抑揚が生まれます。

さらに、もろみ麹の香りが豚骨魚介の世界に妙に馴染むのも面白い。和の発酵ニュアンスが加わることで、丼全体にどこか“和食的な陰影”が差し込まれるのです。豚骨魚介というと、どうしても押しの強さや中毒性に話が寄りがちですが、このチャーシューが入ることで、一杯の味わいは少しだけ落ち着きを得る。濃い、強い、うまい、だけで終わらせない。そこに、香りと熟成の余韻を加えてくる。この仕事ぶり、なかなか粋です。

<メンマ> 極細で繊維質な歯応え!濃厚な世界に軽やかなリズムと下味の確かさを与えるメンマ!

そして忘れてはならないのがメンマです。こういう濃厚系の一杯では、メンマは時に景色の一部として埋没してしまいます。けれどこちらのメンマは、極細であるがゆえに、かえって印象が鮮やかでした。太くごろりとした迫力系ではなく、細く繊維質で、噛めばしゃくりと心地よい抵抗を返してくるタイプ。これが実に合っております。

繊維質な歯応えもまた、小気味よい。ポキッではなく、シャク、コリ、スッとほどける感じ。この細やかな抵抗が、口の中にほんの少しだけ涼しさを生みます。重厚なスープと太麺に囲まれてなお、メンマが軽やかな風穴を開けてくれる。だから一杯が重たく閉じない。味の密度は高いのに、印象はどこか整っている。その裏には、このメンマの手柄が確かにあるように思えました。
総じまして・・・「水曜限定という特別感を超え濃厚豚骨魚介を丁寧に磨き上げた完成度の高い一杯!」

KEN軒の濃厚豚骨魚介らぁ麺は、限定営業という話題性だけでは到底片づけられない、実力ある一杯でありました。豚骨魚介の濃ゆさはしっかり満たしながら、滑らかさとしっとり感で現代的に磨き込まれている。太麺は濃厚を受け止めるだけでなく、自らの小麦感としなやかなコシで丼の中心を担う。チャーシューにはもろみ麹の香りが宿り、メンマは極細の歯応えで全体を支える。どこを切り取っても、“濃厚だからこうしておきました”という安直さがなく、全部がきちんと考えられている。そこに私は、強く惹かれました。
この一杯は、力で殴ってくる豚骨魚介ではありません。濃密な旨みをまといながら、食べ手の舌と心を丁寧に包み、最後まで気持ちよく連れていってくれる一杯です。だから食後には、単に「腹いっぱい」では終わらない。「ああ、今日はいい昼だった」と、生活そのものが少しだけ整うような感覚が残る。水曜日しか営業しないという希少性があるからこそ、なおさらその印象は強く胸に刻まれます。さらにまとめるなら、「濃厚の迫力はそのままに、手触りと品格で一段上へ引き上げた、週一営業の本気豚骨魚介!」激しくオススメ!旨し!なので・・・とっとと詠って、いつものように締めたいと思います!。

お粗末!と言うことで家族にも感謝しながら合掌!!今日も本当にごちそうさまでした!








