2025年10月19日、雨の日曜日。一杯のラーメンに翻弄された男の記録

あの「麺屋さくら井」の移転オープン初日。 ラーメン好きとして、この歴史的瞬間を見逃すわけにはいかない。 そう意気込んで店へと向かった。小雨の中、店の前には「とみ田」や「すず鬼」といった、名だたる人気店からの祝い花が咲き乱れ、まるで業界全体が王の帰還を祝福しているかのようだった 。 しかし、その祝祭ムードとは裏腹に、目に飛び込んできたのは絶望的な光景。 開店前にもかかわらず、既に40人はいるであろう長蛇の列。 その凄まじい行列を前に、私の心はあっけなく折れた。 「これは無理だ…」。そう呟き、一度はその場を離れました・・・。


しかし、家に帰っても、心には後悔の念が燻り続ける。 「なぜ、あそこで諦めてしまったんだ…」。 SNSには、続々と上がる勝利報告。その度に、私の悔いは募っていく。有意義に過ごしたかったはずの日曜日。 気づけば、時計の針は営業終了間際を指していた。 「何をやっているんだ、オレは…」。 自問自答の末、私は再び雨の中へと駆け出していた。 もう一度、あの行列に挑むために。 一杯のラーメンが、ここまで私を狂わせるのでした。もうアホだなオレ。晩飯少なめにする言い訳を自分でして、また店に向かうのでしたー。

<日本酒 OCEAN NINETY NINE> 至高の一杯への序曲:寒菊 OCEAN NINETY NINE 橙海 -Arrival-
期待感を高めるため、まずは食前酒として一杯。選んだのは、千葉の名門「寒菊銘醸」が醸す、現代日本酒シーンで絶大な人気を誇る「OCEAN NINETY NINE」シリーズです 。

後から、ネットで一所懸命、この銘柄を検索。このシリーズは、酒蔵の近くに広がる九十九里浜の四季折々の表情をテーマにしており、その数字「99」も九十九里浜に由来するそうです。今回いただいたのは、ボトルラベルの美しいオレンジ色が印象的な、秋の限定酒「橙海(とうみ)-Arrival-」 。夕日で橙色に染まる九十九里の空を飛行機が着陸していく情景をイメージして名付けられたという、非常にロマンティックな一本! 。

グラスに注がれた液体は、クリスタルのように澄み切った輝きを放ち立ち上る香りはパイナップルや熟したリンゴを思わせる、穏やかで華やかな吟醸香 。 一口含むと、まず舌先に感じる心地よい微発泡感 と共に、凝縮された米のジューシーな甘みと旨味が豊かに広がります。しかし、それは決して甘ったるいだけではありません。後から追いかけてくるフレッシュで綺麗な酸が全体を見事に引き締め、驚くほどキレの良い後味へと導いてくれます 。

これから対峙する「特上塩らぁ麺」の複雑で繊細な味わいを邪魔することなく、むしろ味覚を研ぎ澄まし、期待感を最大限に高めてくれる、まさに完璧なアペリティフ(食前酒)と言えるでしょう。モダンでありながら、日本の風土を大切にするその酒造りの姿勢は、これから味わう「さくら井」の一杯にも通じるフィロソフィーを感じさせます。

<全体> 遂に帰還の麺屋さくら井!新たな門出を祝う「特上塩らぁ麺」はこれ迄と違う衝撃的麺顔!

殆どの客が、「醤油」を選択するのは、ここが醤油系の名店だから。されど天邪鬼なオレは、「塩」からトライするのでした。目の前に置かれた丼が放つ、圧倒的な存在感。 黄金色のスープの上で、色とりどりの具材が咲き誇り、もはや一杯の芸術作品!。まず目を奪われるのは、豪華絢爛なチャーシューの饗宴。 とろけるほど柔らかな「豚バラのロールチャーシュー」。 美しいピンク色で、しっとりとした旨味の「低温調理チャーシュー」。 そして、皮目が香ばしく黒胡椒が効いた「焼き鶏チャーシュー」。 これまでの3種類から増え、一杯の丼の中で肉のコース料理を味わうようです。

この力強い肉の構成を、中央に輝くセミドライトマトの凝縮された旨味と 、すだちの爽やかな酸味が、見事にまとめ上げています。スープは、様々な具材を受け止める力強さを増しながらも、その透明感と繊細さは失われていません。これは単なる移転リニューアルではありませんな!。「特上」という価値を再定義し、ラーメンの新たな可能性を示す、王者の高らかな宣言かと!。 一杯の丼に込められた物語と美食体験に、ただただ圧倒ー・・・。

<出汁> 移転前の記憶を昇華させ一杯の中で変幻する黄金液体!進化するコンプレックススープ!

「さくら井」の塩スープは、結構、変化と進化の歴史ありと思ってる。魚介を深く効かせ鶏節で柔らかさを加えた淡麗な味わいの初期。鶏油を強め、花椒塩で刺激的なアクセントを加えた中期。そして移転を経てたどり着いた現在のスープは、そのどちらとも異なる、新たな境地へと昇華しているように感じます。

レンゲで黄金色の液体をすくうと、上質な鶏油がキラキラと輝き、その透明度の高さにまず驚かされます。一口含むと、舌の上に広がるのは、単一の言葉では表現できない、複雑で多層的な旨味の波。鶏の芳醇な香りと、幾重にも重なる魚介系の奥深い味わいが渾然一体となり、どちらとも言い切れない見事なバランスを保っています。かつての花椒塩に代わり、全体を引き締めるのはブラックペッパー系のシャープな香り。この刺激が、スープの輪郭をより鮮明に際立たせています。

しかし、このスープの真骨頂は、その「変化」にあります。食べ進めるにつれて、個性豊かな5種類のチャーシューから溶け出す肉の旨味—炭火の香ばしさ、ハーブの香り、上質な脂の甘み—そして麺からにじみ出る小麦の風合いが、徐々にスープへと混じり合っていくのです。

最初はキリッとクリアだったその表情は、刻一刻と丸みを帯び、最終的には丼の底に残る一滴に至るまで 、ふくよかで優しく、それでいてどこまでも分厚い旨味の層を成していきます。一杯の丼の中で完成する、味のグラデーション!。

<麺> 隠れた主役にして最高のパートナー!複雑なスープと完璧に踊る絹糸の如き麺!

この一杯を根底から支えるのが、きっと名門「三河屋製麺」謹製の特注麺でしょう 。箸で持ち上げると、絹糸のように美しく整った麺線が姿を現します。

加水を抑えた中細ストレート麺は 、見た目通りの滑らかな舌触りと、つるりとした喉越しが特徴。しかし、その魅力は柔らかさだけではありません。噛みしめると「サクッ」「プツッ」と小気味よく切れる、軽快な歯切れの良さ 。この食感が、多種多様なチャーシューや具材の食感と見事なコントラストを生み出します。

そして何より特筆すべきは、この複雑なスープとの一体感。繊細ながらも芯のある麺は、スープの旨味を過不足なく持ち上げ、口の中で小麦のほのかな甘みと融合します。食べ進めても伸びにくく、最後までその食感を維持する力強さも併せ持っています。チャーシューと共に頬張れば肉の旨味を、海苔で巻けば磯の香りを、それぞれが麺と絡み合うことで、新たな味わいが生まれるのです。まさに、この一杯のために生まれた、究極のパートナーと言えるでしょう。

<チャーシュー> 麺顔いっぱいに広がる肉のフルコース!5種に増えて進化したチャーシューの饗宴!
この一杯の主役は、間違いなく豪華絢爛に進化したチャーシューです。移転に伴い新たに導入された炭火コンロとオーブンが、これまでのチャーシューの概念を根底から覆し、5種類もの肉が織りなす味覚のシンフォニーを生み出しました。

鶏もも肉! 新設オーブンの真価が発揮された逸品。皮は見事にパリッと焼き上げられ、噛むと香ばしい音が響きます。振りかけられたブラックペッパーのスパイシーさが、ジューシーな肉の旨味を最大限に引き立てており、これまでの鶏チャーシューとは一線を画す、力強い存在感を放っています。

豚肩ロース!定番でありながら、さらなる高みへ。低温でじっくりと火入れされた美しいピンク色の断面は健在で、香草??と、もろみ麹が芯まで染み渡り、驚くほど柔らかくしっとりとした仕上がりです。口の中でほどけるような食感と、鼻に抜ける上品な香りがたまりません。

豚モモ肉! 吊るし焼きを彷彿とさせる、燻製にも似た仄かな香ばしさが特徴的なチャーシュー。赤身のしっかりとした歯ごたえがありながらも、決して硬くはなく、噛みしめるほどに肉本来の力強い旨味が溢れ出してきます。他の部位とは異なる、野趣あふれる風味が良いアクセントになっています。

鶏胸肉! もろみ麹の力が最大限に活かされ、柔らかさの極致に達した一枚 。パサつきとは無縁の、驚異的なしっとり感。麹の優しい甘みと旨味が深く浸透しており、淡白な中にも奥深い味わいが広がります。繊細な塩スープとの相性は抜群です。

豚ばら肉!炭火コンロの導入が最も劇的な変化をもたらしたのが、この豚ばら肉でしょう。余分な脂は炭火で落とされ、残った脂は甘く蕩けるような口溶けに。一方、赤身部分はスープの旨味をたっぷりと吸い込み、ジューシーな味わい。脂の甘みと赤身の旨味が口の中で見事な二重奏を奏でます。もはやこれら5種の肉は、もはや単なるトッピングではありません。それぞれが異なる調理法と個性を持つ、一杯の丼の中で完結する「肉のフルコース」ってな感覚です!。

<他具材> 主役を引き立てる名脇役たち!計算され尽くした味と食感のアンサンブル
豪華なスープとチャーシューの影で、他の具材たちもまた、一杯の丼を完成させる上で極めて重要な役割を担っています。

ドライプチトマト: 丼の中央で宝石のように輝く、鮮やかな赤色のドライプチトマト。これは単なる彩りではありません。水分を飛ばすことで甘みと旨味が凝縮されたこの一粒は、口にした瞬間にフルーティーな酸味を放ち、スープやチャーシューの脂分をリフレッシュさせるよう?。モダンで革新的なアクセントです。

ネギ: 丁寧に、そして極めて繊細に刻まれた純白の白髪ネギ。そのシャキシャキとした食感は、麺やチャーシューの柔らかさとの見事な対比を生み出します。鼻に抜ける爽やかな辛味と香りが、複雑なスープの味わいを一層引き立て、次の一口へと誘います。

青菜: 鮮やかな緑色が美しい青菜は、おそらく旧店舗から受け継がれる小松菜でしょう。シャキッとした心地よい歯ごたえと、ほのかな苦味が、濃厚な味わいの中で絶妙な箸休めとなります。見た目の彩りだけでなく、味覚のバランスを整える重要な存在です。

メンマ: 脇役と呼ぶにはあまりにも上質な細メンマ!。サクッとした繊維質な食感を残しており、噛むほどに出汁の旨味がじゅわっと溢れ出します。その存在感は、麺と共にすする際の食感の楽しさを倍増させてくれます。
<味玉> 一杯に宿る黄金の太陽!完璧なる半熟味玉!

数々の革新的な具材が並ぶ中で、この味玉は王道にして究極の存在感を放ちます。レンゲですくい上げると、つるりとした完璧なフォルムの白身が姿を現します。箸で割れば、中から現れるのは、まるで夕焼けを閉じ込めたかのような、濃厚で鮮やかなオレンジ色の黄身。

流れ出す寸前で絶妙に留められた、とろりとした半熟加減はまさに芸術の域。口に運べば、ぷるんとした弾力の白身と、ねっとりと舌に絡みつく濃厚な黄身のコクが一体となり、至福の味わいが広がります。出汁の旨味が芯まで染み渡りながらも、卵本来の優しい甘みは失われていません。
総じまして・・・祝!移転再開店!武蔵野市の食文化の可能性を拡張する壮大な取り組み!?

食前酒に選んだ「OCEAN NINETY NINE」が奏でる華やかな序曲から始まり、目の前に現れた丼は、もはやアートと呼ぶべき圧倒的な存在感を放っていました。主役である5種のチャーシューが織りなす、香りと食感のシンフォニー。 そして、それら全てを受け止め、食べ進めるごとに旨味を増していく、変幻自在のコンプレックススープ。 ドライプチトマトの酸味や白髪ネギの食感に至るまで、丼を構成する全てのパーツに一切の妥協はなく、緻密な計算の上に成り立っています。激しくオススメ!旨し!なので・・・とっとと最後に詠って、いつものように締めたいと思います!

お粗末!ということで家族にも感謝しながら合掌!!今日も本当にごちそうさまでした!!!










