【今週のラーメン５７９５】中華そば下連雀（東京・三鷹）ワンタン麺＋チャーシュー皿＋キリンハートランド２本　〜昭和ノスタルジーが立ちのぼるワンタン麺と、看板チャーシュー皿で整える幸福！

＜休日だから急がなくていい！長い道のりをのんびりと遠回りして歩く＞

　９月の連休。空はまだ入道雲の名残りをちらつかせ、風は蒸しているのにどこか秋の角が立ちはじめている。角を曲がるたび、祭り囃子の笛が細く長く伸び、太鼓がドンと胸板を叩く。提灯の赤が連なり、ちょっとした自治体の露店が焼きそばやら甘い綿あめやらを並べたて、その匂いが街角で小競り合いをしている。そんな景色を眺めながら、歩幅を一つ落とす。信号が青に変わっても渡らず一呼吸、団扇で風をつくり、汗がのど仏をつうっと滑り落ちるのを見送ってから、もう一歩だけゆっくり進む。

　そんな祭りの日だから、「中華そば下連雀」も今日ばかりは昼だけ営業。常連さんが店主に、「この後、神輿担ぐのかい？」って聞いてたが、まさか！若い人に任せますよと厨房の中で笑ってた。

＜ハートランド＞ホップの苦味はずしん、麦芽の甘みはするり、緑のボトルが二本並ぶ景色までごちそう

　さあ飲もう！今日もハートランドでスタート。これがまたビール好きのツボを丁寧になぞってくる。口開けはホップの苦味がずしりと背骨を立て、追いかけるように麦芽の軽やかな甘みが舌の上をスルッと滑空。硬派なのに華やぐ、この二段ロケットが気持ちを一気に良い気分へ運ぶ。

　中瓶サイズだからこそ温度の落ち込みが少なく、最初の一口から最後の一滴まで輪郭が崩れないのも憎いところ。気づけば緑のボトルが二本、仲良くカウンターで整列。過去の記憶をひっくり返しても、この二本並びは初かも。……次は三本に挑戦？　いや、口が勝手に頷きそうだから今は冗談にしておこう。

＜チャーシュー皿＞頼まにゃ損損！味付白髪ネギで見た目盛り上げ！相変わらず豪腕の豚バラ12枚！1ダース！

　以前は刻みネギだったトップが、今日は味付白髪ネギに。ひと手間の艶と立ち上るごま香が加わり、皿全体の印象はぐっと上品に。だが主役はあくまで豚バラで、整然と並ぶ“1ダース＝12枚”の光景はいつ見ても拍手もの。

　厚みはほんの少しだけライトになった気もするが、これがまた食べ進みのテンポを加速させる絶妙な塩梅。塩ダレと白髪ネギの相性は説明不要のゴールデンカップルで、ザクザク食感→塩ダレのコク→豚脂の甘みが三拍子で押し寄せる。ここにカウンターの自家製ラー油をちょいと落とせば、香りがふっと立って脂の甘みがもう一段階とろり。調味料の“降りかかり”が良い店は、旨さの着地点まで面倒を見てくれる店だ。

＜全体＞皮まで主役のワンタン麺が呼び覚ます“昭和の昼下がり”——チャーシュー・味玉・メンマが三位一体で750円、満足の定義を更新するナイスコスパ

このワンタン麺、偉いのは“肉だけ”じゃなく“皮の存在感”までしっかり語ってくるところ。啜ればひらり、噛めばもっちり、スープを抱いた薄衣が口内でほどけていく幸福。そこへチャーシューの旨み、味付茹玉子のノスタルジー、メンマの素朴な香りが寄り添い、丼の中に“懐かしい昼下がり”が再演される。

これで750円は、財布にやさしいを通り越して“文化保全費”。次回はチャーシュー麺に挑むと胸に誓いつつ、結局またこのノスタルジックな一杯に戻ってきてしまいそうだ。満足とはこういう体験を指すのだと、静かに教えてくれる。

＜出汁＞「飾らず・気取らず・しかし物語は深く」——サラリとした口当たりに、豚の旨みと野菜・昆布の骨格がじわりと重なる、円やか進化系の醤油出汁

昔ながらの中華そば、と言い切れる潔さ。表情はサラサラ、味わいはあくまで凛と。軽やかな豚の旨みが醤油の間をすり抜け、温度が落ちるたびに野菜や昆布の旨みがじわじわと輪郭を描く。シンプルの構成要素を足し算せず“引き算の精度”で整えたからこその統一感だ。今日はいつもよりだしの解像度が一段上がって感じられ、「中華そばみたか」を経由したような面持ちもチラリ。……とはいえビール二本の後なので、酔った駄舌の戯言かもしれない。でも、旨くなっている——その体感は確かに舌に残った。

＜麺＞江ぐち系譜の茶褐色が語る“素朴の色気”角の立つストレート細麺変更で蕎麦ライクが加速！終盤は出汁を吸って甘い風合い

　今回も細麺指定。器に顔を寄せると、茶褐色——いや淡い灰褐色も混じる原野のような地肌がしっとり濡れている。角がきりりと立つストレート形状は麺線の揃いが良く、視覚から“蕎麦ライク”のスイッチを入れてくる。

　すすり出しは和蕎麦のように滑らか、歯が触れるとプツプツと小気味よく弾け、その瞬間に小麦の甘みがふわっと開花。奥歯で潰していけば、素地と出汁が一体化していく過程が手に取るように分かる。終盤には出汁を存分に吸い込み、最初とは別人のまろやかフェイスに。一本の麺で二度おいしい、とはまさにこれ。

＜ワンタン＞みたか譜系の“皮ごと主役”の雲呑学！肉粒の存在感が満足を押し上げ！懐かしさの中に進化を観る！？

　江ぐち・みたかの雲呑を思い出しながら、今の一粒を口に運ぶ。皮は薄すぎず厚すぎず、スープをまとったまま舌に寄り添い、噛めばふんわりとろり。内側からは肉粒の確かな押し返しがあり、満足感のメーターが一気に振り切れる。

　過去の記憶を呼び戻すノスタルジーだけじゃない。歳月の中でチューニングされた現在進行形の旨さがここにある。まだ未体験の“ワンタン皿”が気になって仕方ないが、チャーシュー皿との連食はさすがに修羅の道。次回、胃袋が広い日に決着をつけよう。

＜チャーシュー＞熱い出汁が脂をほどき赤身が旨みを抱きとめる！出汁がじわりと効いた豚バラ！スープと相思相愛！

　デフォで3枚、堂々の存在感。かつては雨の日サービスで増えた記憶もあるが、今は標準でこのボリューム。丼の熱に当たると脂身はみるみる半透明にとろけ、醤油のキレを帯びた出汁が赤身にじわり浸透。噛めば脂の甘みが前に出て、次の瞬間には赤身がそれを受け止めて旨みの層が完成する。皿で食べる豪快さも好きだが、丼の中で“スープと恋に落ちる”この姿は、また別ベクトルの多幸感だ。

＜茹玉子＞固茹でこそ尊い昭和メモリー！白身はほの甘くタレを含み黄身は崩して出汁に溶かして楽しむ！

　味玉といえばトロリ半熟が主流の昨今、ここでは堂々の固茹で。白身はほんのりタレ色にたゆたい、黄身はホクッとした粉質で、出汁に崩して溶かすと一杯が途端に“おでんの時間”になる。派手さはないが、記憶の引き出しを優しく開ける存在感。こういう一本筋の通ったチューニング、好きだ。

＜メンマ＞出汁を吸って繊維はやわらぎ、歯応えは軽快に、素朴が旨いって感覚！まさに教科書

　器の上で温もりを得たメンマは、冷皿とは別人格。スープを吸って竹の素地の香りがふっと立ち、繊維はほどけつつもコリッと軽快。噛むほどに醤油出汁の旨みがじわじわ押し返し、麺と一緒に口へ運ぶ手が止まらない。素朴が旨い——その意味を噛みしめる副題だ。

総じまして、「昭和ノスタルジーが立ちのぼるワンタン麺と、看板チャーシュー皿で整える幸福！」

　劇的な派手さはない。でも食べ終えるころには、不思議と心が整っている。ワンタン麺は昭和のやすらぎを、チャーシュー皿は現代のご褒美を、ハートランドは背筋の伸びる前口上を——それぞれが役割を果たし、テーブルの上で一本の物語になる。750円の丼に詰まっていたのは、値段以上の“いい時間”。次回はチャーシュー麺で、でもきっとまたワンタン麺で——そんな優柔不断を楽しみに、また暖簾をくぐりたい。激しくオススメ！旨し！なので・・・とっとと最後に詠って、いつものように締めたいと思います！。